株式会社アンカーネットワークサービスの人権関連の革新的な取組みとビジョン

本インタビューは、PCリユース事業等を展開する、株式会社アンカーネットワークサービス社 https://www.anchor-net.co.jp/ に対して人権関連(ビジネスと人権)の本格的な企業の活動として、特に特筆性がある優れた取り組みであるため、代表取締役CEOの碇隆司様にインタビューを行わせて頂いたものです。

iU組織研究機構 代表理事・社労士の松井が主にプロジェクト支援を担当し、本インタビューも行ったものです。

1.人権に対する基礎的な観点、アンカーグループの人権方針について

人権方針策定の背景と経緯

――アンカーグループの人権方針が策定されたようですね、今回の経緯や注力した点について教えてください。:アンカーグループ 人権方針  https://www.anchor-net.co.jp/aboutus/policy/

株式会社アンカーネットワークサービス、またアンカーグループの今回の人権方針策定の要因は、根本的には、社会全体で人権への注目が高まり、企業の社会的責任がより強くに問われる時代となったことも背景にあります。

弊社はPCのリユースを中心とする事業ですので、環境・SDGs・サステナビリティには前から強く着目していますが、近年対応の動きが広がっており、当社の事業と接続性が強い人権についても本格的に重視をしていくことと決めました。きっかけとしては、顧客企業からの人権デューデリジェンスに関する要請があったこともあります。

しかし、これらの外的要因だけでなく、何より当社の事業の本質を見つめ直す機会として捉えています。PCリユースを中心とした弊社の事業は、本来的に環境負荷の軽減、デジタル格差の解消、循環型経済の実現といった社会的価値を創出するものです。今回の人権方針策定により、これまで意識していた価値を体系的に整理し、より深く理解することができました。さらに重要なのは、これを単なる方針の策定で終わらせるのではなく、顧客との協働による人権価値の実現、また連動した事業価値の向上につなげていく機会として位置づけていることです。

今回の取り組みを通じ、当社の人権関連の価値の考え方や、顧客や社会と連携した価値の実現、また事業との相乗効果がある推進の方針を冊子にまとめています。(下記表紙)

 

 

人権方針の内容と基本的な考え方

――なるほど、人権方針自体の内容や注力している点、基本となる考え方についてお教えいただけますか。

当社の人権方針は「万人万物共存共生」という創業以来の理念を基盤としています。この理念は、人の命と物の命をいずれも輝かせることを基礎としており、人権を単に人間だけの権利として捉えるのではなく、より包括的な視点から理解しています。物には作り手の思いや技術、時間が込められており、それらには命と尊厳があると考えています。使い終わった製品を適切に次のステージに送り届けることで、物の命を延ばし、人の価値の表れである人権を尊重し、同時に社会全体の持続可能性を高めることが我々の使命です。

この基本理念の上に、3つの重要な領域への注力を明確化しました。
第一に「社会に関連する人権」として、情報と教育にアクセスする権利の実現です。PCリユース事業を通じてデジタルデバイドを解消し、様々な人々にデジタル技術の恩恵を届けることで、教育や就労の機会を拡大します。
第二に「経済に関連する人権」として、経済的機会と労働を得る権利の保障です。障害者雇用の促進や、サプライチェーンでの価値創出を通じて、多様な人々の経済参加を支援します。
第三に「環境に関連する人権」として、健康で安全な環境で生きる権利の実現です。適切なリサイクル処理によるCO2削減や、有害物質の適正処理により、環境破壊から人々を守ります。

 

 

これらの取り組みは、人権を抽象的な概念として捉えるのではなく、事業活動と直接的に結びつけて実現していくことを重視しています。弊社の事業活動や社内の労働での人権が確保され、さらに取引先や顧客と共に、人権の配慮と促進を推進し、かつ人権価値の実現が事業価値の向上と同時に達成される仕組みを構築することで、持続可能な人権尊重の実践を目指しています。

 

人権・サステナビリティの価値観の原点となる体験

――そうした考え方の原点は、碇社長のどのような体験にあるのでしょうか。

この「万人万物共存共生」の理念や、物の命を大切にする価値観は、私自身の幼少期からの体験に深く根ざしています。厳格な家庭環境で育ち、人間関係における平等性や公正性について幼い頃から考える機会が多くありました。また、松下電器での10年間の経験で、当時の上司から「職人の50年という命の時間の中に、魂も技術も思いも入っている。この命の時間で作られたものを大事にしてください」という言葉をいただいたことが、現在の価値観の基盤となっています。

その後、中古業界での様々な経験を通じて、物が持つ本来の価値と、それが適切に扱われていない現実を目の当たりにしました。まだ十分に使える製品が廃棄される一方で、それを必要としている人々がいるという矛盾を解決したいという思いが、現在の事業への情熱につながっています。人も物も、本来はすべて光を持っており、その光が他者のために役立つときに最も輝くという信念が、当社の人権方針の根底にあります。

2.人権の取り組みの中で整理できたこと、人権方針をもとにした今後の社内育成

 

社内での人権方針実装に向けた取り組み、雇用関連の法令や政策の機会としての活用

――人権関連の活動は、全体としてはどのような形になるのでしょうか?特に事業活動の接続についてお教えください

 

今回の人権方針策定プロセスの後に、自社内の人権に関する各項目の確認や浸透計画を立案しました。これをより徹底していくこと共に、法令や政策に接続した情報も多く整理して計画を立てています。

その中で、2025年の雇用保険法改正による価値の徹底や技能向上の促進、育児介護休業法の改正や女性活躍推進などによる権利尊重、障害者雇用促進法の法定雇用率引き上げに伴う人権価値の一層の推進など、弊社が人権を通じて実現したい価値と繋がる法制度の変化が機会となることが分かりました。
これらは単なる法令遵守の課題ではなく、価値を徹底し、かつそういった活動を通じた企業としての成長機会としても捉える必要があることがわかりました。

たとえば、障害者雇用率の引き上げは障害者の方の働く権利・ディーセントワークの尊重を徹底する機会であるとともに、新たな事業領域の開拓や顧客企業との連携深化の機会として活用できます。また、技能向上促進の要請は、人権価値を徹底しつつ、同時に従業員のキャリア開発と企業の競争力強化を同時に実現する機会となります。

具体的な実装においては、顧客との連携を通じた人権デューデリジェンスの実施と、それを事業価値の向上に結びつけていく仕組みの構築を重視します。人権配慮を単なるリスク管理として捉えるのではなく、新たな価値創出の源泉として位置づけることで、持続可能な取り組みとして定着させていきます。同時に、社内の理解と実践を深めるため、定期的な研修や啓発活動、従業員の声を反映した改善活動を継続的に実施します。

 

 

従業員意識調査から見えた可能性

――従業員の方の意識も踏まえた、アンカーグループの人権方針に基づいて、社内で行っていく内容でお考えのことをお教えください

今回実施した従業員アンケートでは、予想を大きく上回る結果が得られました。多くの従業員が、PCの再生による社会的使命を強く意識し、自らの業務に社会的意義を見出していることが明らかになりました。特に印象的だったのは、経営陣の方針は理解しているものの、それを具体的な業務レベルでどう実現すればよいかわからないという声が多数寄せられたことです。

これは、従業員に新たな価値観を植え付ける必要があるのではなく、すでに持っている高い意識や志を表出し、実践につなげる機会を提供することが重要であることを示しています。従業員の多くは、会社の理念に深く共感し、社会に貢献したいという強い意欲を持っています。今後は、この意欲を具体的な行動や成果に結びつけるための仕組みづくりに注力していきます。

 

具体的には、人権方針を軸とした価値共有の場の設定、個人の業務と社会的価値の関連性の明確化の研修の場を設けるなど、従業員の提案や改善アイデアを積極的に採用する仕組みの構築などを通じて、組織全体の意識向上と実践力の強化を図ります。これらの取り組みを通じて、働き方や事業推進の質を向上させるとともに、個人のキャリア支援も充実させ、企業全体の進化を促進する鍵として人権方針を活用していければと思います。

 

3,人権活動と接続する事業活動の具体的な展開・目指すべき価値の展開

 

お客様と志を共有し、実現へと向かう統合的アプローチ

――今までのお話で、現在のビジネスと直結する価値について多くのお話がありました。ビジネスと直結していく人権の活動はどのような形になるのでしょうか?

 

当社の人権に関する活動は、お客様との段階的な深化を行っていくという設計をしています。基本的な考え方は今までもあったのですが、今回の人権方針を確定し、事業の価値を見直す過程で形になったプロセスをたどってお客様と共に実現していくものです。今回の人権に関する活動で形にした、顧客企業との「志の合意」から始まる3段階のアプローチです。

第1段階では、人権や環境に対する基本的な価値観や目標について顧客企業と深い対話を行い、共通の志を確認します。
第2段階では、具体的な環境指標や障害者雇用率などのESG指標の設定と活用を通じて、データに基づいた価値向上を検討していき、事業上の価値向上と人権対応、サステナビリティ価値の向上を同時に進めていきます。
第3段階では、より深い事業連携を通じて、両社の事業価値向上と社会的価値創出を達成します。

 

それらを顧客企業の雇用上の実績やESG指標として活用していただくことで、調達や取引における付加価値を創出します。これにより、人権関連の活動や環境配慮が単なるコストではなく、事業価値向上の源泉となる仕組みを構築できます。当社では環境に関するR2国際認証などの信頼性の高い認証を取得しており、雇用においては健康経営優良法人認定も取得しています。これらを元にした連携より、顧客企業の株主や投資家に対する説明責任の向上にも貢献できます。

 

障害者雇用支援事業の展開

2026年7月からの障害者法定雇用率の引き上げ(2.5%から2.7%)が予定されており、多くの企業で障害者雇用の促進が急務となっています。当社では、この社会的要請を新たな事業機会として捉え、顧客企業との協働による障害者雇用支援事業を本格展開します。

 

この事業の特徴は、単純な労働力の提供ではなく、顧客企業の本業と直接的に関連した業務を障害者の方々に担っていただくことです。例えば、顧客企業で使用されなくなったPCの診断、分解、部品取り、リサイクル処理などの業務を、当社のサテライトオフィスで障害者の方々が担当します。これにより、顧客企業は人権価値を推進し、かつ自社の資産管理の最適化と障害者雇用率の向上を同時に実現できます。

 

障害者の方による農業などの事業活動が注目されていますが、PCリユース等の業務は顧客企業の社員向けの直接の価値が高いものですし、障害者雇用が単なる法令遵守にとどまらず、環境貢献、健康経営、社員満足度向上などの多面的な効果を生み出します。PCスキルの向上、農業技術の習得、リサイクル技術の専門化など、個人の適性と希望に応じた多様な成長機会を提供することで、真の意味での自立支援を実現していくこともできます。

弊社では、現時点でものべ200名を超える障害者の方が事業に参加していますが、このノウハウや価値を、顧客企業と連携して社会的に展開していくビジョンを持っています。

 

 

 

デジタルデバイド解消への貢献

また弊社では教育機関への支援にも力を入れています。これまでに高等学校に200台超のリユースPCを提供するなど、学ぶ方へのIT活用スキル向上とSDGs教育の教材として活用していただいています。これにより、教育予算の限られた学校でも、質の高いデジタル教育環境を整備できます。

ほか、災害時の緊急支援も重要な取り組みの一つです。2017年の九州北部豪雨では、被災地の行政機関や支援団体に対してPCの貸与・寄贈を迅速に実施し、復旧活動の効率化に貢献しました。この実績が評価され、総務省の九州総合通信局による非常無線通信協議会表彰を頂くともに、災害時の企業の社会的責任のモデルケースとしても注目されています。

ほか、サーキュラーエコノミー・循環型経済を作っていくことも人権の実現にも繋がると思いますが、IT機器の残存価値の証券化を最新技術で行うことなど、様々な革新的な事業活動を進めています。

当社は人権の実現と事業価値の向上を同時に達成する持続可能なビジネスモデルを構築していきます。顧客企業との深い連携により、単なるサービス提供者を超えて、共に社会的価値を創出するパートナーとしての関係を築いていきます。人権方針を単なる宣言で終わらせるのではなく、具体的な行動と成果によって社会に貢献し続けることが、当社の使命であり責任であると考えています。

 

社名 株式会社 アンカーネットワークサービス Anchor Network Service, Inc.
https://www.anchor-net.co.jp/
本店所在地 〒125-0051 東京都葛飾区新宿3 丁目9 番15 号
代表者 代表取締役CEO 碇 隆司
従業員数 206名(2024年6月30日時点)
事業内容 ・パソコン、複合機、ネットワーク機器などの買取及び販売
・データ消去サービス
・産業廃棄物の収集運搬及び中間処理
・リサイクルPC等の販売
・OA機器の手解体によるマテリアル処理
・東京都指定 就労移行支援・就労定着支援事業所の運営(精神・発達障がいの方の就職支援事業)
・IT資産の選定から廃棄までのライフサイクルを各プロセスに応じてサポートするLCMサービス

 

投稿者プロフィール

松井勇策
雇用系シンクタンク (一社)iU組織研究機構 代表理事
情報経営イノベーション専門職大学 客員教授(専門:人的資本・雇用政策)
社労士・公認心理師・AIジェネラリスト/WEBフロントエンジニア。現代の「働き方」の先端的な動きや、最新の組織技術の人的資本経営等の専門家。多くの企業へのコンサルティングやセミナー等を行う。日本テレビ「スッキリ」雇用コメンテーター出演経験、著書「現代の人事の最新課題」他、寄稿多数。株式会社リクルート出身、採用/組織人事コンサルティング、のち東証一部上場時の事業部の内部統制監査責任者を歴任。